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第1界 ハジメカイ #7

last update Last Updated: 2025-11-13 14:21:36

 バビロンが暴れ回る新宿の街。

 逃げ惑う人々の中、その群れを掻き分けて反対方向へと走る者が一人。

「はぁっ、はぁっ……怖いっ、はっ……!」

 持久力は高い方じゃない。しかし彼の使命感によって発生するアドレナリンが彼をどこまでも走らせる。

 自分に一体何が出来るかは分からない。だがしかし、ここで動いてこそヒーローというものだろう。

「(少しでも……助けられたら……!)」

 燃えるビルを追い越し、瓦礫に潰された死体を横切って走る。

 焼け野原になった新宿を息を切らして駆け抜ける。

「あっ」

 しかし彼は選ばれし者ではない。

 瓦礫につまずき簡単に転んでしまった。

「くぅぅ……」

 地面に突っ伏し何も出来ない自分にショックを受ける。

 やはり自分にヒーローなんて無理なのだろうか、そう思った時。

「大丈夫ですか⁈」

 甲高い女性の声が聞こえる。

 顔を上げるとそこには自分と同い年くらいの少女と彼女と手を繋ぐ小さい男の子がいた。

「ぁ、君……」

 何故か一瞬立ち止まるがその後すぐに手を差し伸べる。

「ほら、立てる?」

 倒れている自分に手を差し伸べてくれる少女。

 太陽の光を背に浴びた彼女の姿は、まるで自分がなりたかった"理想のヒーロー"のようだった。

 ☆

 手を取り合った3人は近くのショッピングモールの中に避難していた。

「私、"勇山英美/イサヤマヒデミ"。よろしくね」

「創 快。」

「オーケー快ね。そしてこの子はリク君。」

「グスッ……」

 リクという子供は先程からずっと泣いている。

「この子ね、あの怪物の光線で目の前でお母さんを亡くしたの。だから何とか助けてあげたいと思って無理にでも連れて行ってる。」

「そっか……」

 彼女は凄い、自分には出来なかった"人を助ける事"を平然とやってのけている。

 それを目の当たりにした快の心境は少し複雑だった。

 その時遠くの方からバビロンの咆哮が聞こえる。

 まだ破壊活動を続けているらしい。

「ひっ……」

 母の事を思い出したのか恐れるリク。

「よしよし、大丈夫だからね〜」

「ひっく、グスッ……ママぁ〜」

 必死に英美が撫でても泣き止む気配はない。

 同然だ、母を失ったばかりだから。

 快は母を失った時の自分と今のリクを照らし合わせて全く泣けなかった事、それが意味する事にまた複雑な感情を抱いた。

「よし、コレ何だ?」

 リクに見せた英美の手の中にはボロボロの瓦礫があった。

「これをこうして……パッ!はい無くなりました!」

 どうやら手品を見せるらしい。

「ねぇ、ポケットの中見てみな?」

 どうせその瓦礫が出て来るんだろう、快は側から見ていてそう思った。

 しかし出てきたのは。

「なんとさっきの瓦礫さんはリク君の心を通過して綺麗な宝石になりました〜」

 英美はリクのポケット革の紐でネックレスのようになった水晶を取り出した。

 その水晶の美しさに少し目を見張る。

「……!」

 あまりに綺麗なものが出て来たためリクも同様にその水晶に注目した。

 次に英美はリクの肩を叩いて言う。

「君の宝石を生み出すような綺麗な心はきっとママにとっても宝物だったよ思うよ。」

「……うんっ!」

 なんと泣き止ませてしまった。

 自分には決して出来ない事だ。

 しかし快の心は圧倒された事実を認めた事により英美との差を感じ気分が落ち込むのであった。

「……くっ」

 そんな快を他所に英美は行動を始めた。

「グォォォ……ッ」

 その時、またバビロンの咆哮と共にビルが破壊されガラスが割れるような音が聞こえた。

「いつまでもここにいる訳にはいかないね、安全な所まで移動しよっか」

 つづく

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